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2006年7月 4日 (火)

「マーキュリー通信」no.418【悪魔のマーケティング】

悪魔のマーケティングとは随分と恐ろしいネーミングです。
 現在ベストセラー中の書籍「悪魔のマーケティング-たばこ産業が語った真実」(Action on Smoking & Health編、切明義孝訳他、日経BP出版センター2100円)は、業界の暴露本ですが、さすが日経BPから出版しているだけあって、たばこ産業のマーケティングを「 悪魔のマーケティング」というネーミングを冠して出版しました(原著は"Tobacco Explained"という題です。随分とおとなしい題ですね)。

「タバコは、正しい使い方により体に明らかに害を及ぼす、唯一の合法的な商品」「世界で唯一合法的に麻薬相当の商品を健康を害する又は死に至らしめることを承知でマーケティング活動をしている商品」といえます。「AKUMA.TIF」をダウンロード

 本書の情報源、データ等はWHO、そして何とタバコ業界から入手しています。
 それではたばこ産業の「 悪魔のマーケティング」とは何でしょうか?

 普通煙を吸っても快感を得ません。それでは同じ煙であるタバコを吸うと何故快感を得られるのでしょうか?
 それは、タバコの中に含まれる薬物、ニコチンがその快感物質の中味です。しかし、タバコを吸うと依存性が出てきます。吸わなくなるとイライラしてきます。これはニコチンが原因です。タバコという商品は、ニコチンを体内に注射器なしで注入する手段で、タバコを吸えば吸うほど体内に蓄積され、依存性が高まり、止められなくなる。
 愛煙家は好きでタバコを吸っているつもりだが、たばこ産業の策略にかかり、「タバコなしでは生きていけない状態」にはめられている状態となっています。まさにタバコ会社にとって思うツボ、飛んで火に入る夏の虫状態となっているわけです。

 ニコチンは、麻薬と同じなのだが、麻薬を合法的に売らせてしまう力、ここにたばこ産業の極めて強力な政治力があるわけです。

 たばこ産業の「 悪魔のマーケティング」」は、日本の現状を見ればよく分かります。
 40年前、私の子供の頃、喫煙者はもっぱら大人の男性でした。女性の喫煙者はバーのホステス、不良少女、一部のキャリアウーマンでした。女性の喫煙イメージは非常に悪かったのです。
 あれから40年経って現在の状況はどうでしょう?
 
 男性の喫煙者は半減しました。
 欧米では、喫煙者は自分の意思をコントロールできない意志薄弱な人間として低く見られていました。事実、私がカナダに駐在していた25年前頃、エリートビジネスマンでタバコを吸う人は殆どいませんでした。吸うのは日本人くらいでした。喫煙者はブルーカラーに限られていました。

 一方で、女性の喫煙者と未成年者の喫煙率は急上昇しました。
 女性の喫煙者の急増はタバコ会社の女性をターゲットとしたイメージ戦略が見事に当たったわけです。今では、若い女性が平気で臆せずタバコを吸っています。

 未成年者の喫煙率の急上昇もタバコ会社の巧みなマーケティング戦略が挙げられます。特に日本では、未成年者が堂々と購入できる自販機が至る所に設置してあります。未成年者の喫煙を法律で禁じておきながら、自販機を設置しているのは、丁度、猫の目の前に魚をぶら下げているようなモノです。
 
 それとタバコの価格の相対的安さが挙げられます。私の子供の頃はハイライト一箱が60円でした。しかし、7月1日からタバコは値上げになっても僅か290円です。昔の物価水準と比べると、600円程度で良いわけですが、相対的に安くなっているので、未成年者が購入しやすくなったわけです。それともちろん未成年者むけのプロモーション戦略が功を奏しています。
 
 未成年者向けのプロモーションに関しては、タバコ会社は表向きはもちろん否定しています。しかし、毎年男性喫煙者の喫煙率が減少していく中、タバコ会社にとっては未成年者は重要な顧客ターゲットです。いかに若い時から各企業の銘柄を吸わせ、ブランドロイヤリティを高めるかが重要なマーケティング戦略です。

 しかしながら、それでも先進国の喫煙率は低下の一途を辿っています。そこで次の市場が、人口の多い国や発展途上国です。タバコの健康に関心の低い国、規制の少ない国がターゲットです。当然、現在の最重要市場は中国となります。
 
 たばこ産業の本音は、「タバコなんざ、ガキや貧乏人に黒人、後はバカに吸わせておけ」これがたばこ産業の語った本音、真実だそうです。

 これら周到なマーケティング戦略の実施により、たばこ産業は喫煙率の低下をカバーし、莫大な利益を上げてきました。たばこ産業にとっては、喫煙者の健康など全く眼中にありません。いかにして利益を上げるか、自社のシェアを拡大するかが最重点事項です。だから「悪魔のマーケティング」と命名されたわけです。

 今日の英国では、喫煙は一般的に反社会的行為と見なされているそうです。本書を読むと、たばこ産業のやっていることは限りなく犯罪に近いです。即ち、タバコは喫煙者を死に至らしめる道具とたばこ産業自身熟知しておきながら、50年間ウソを突き通し、政治力でタバコを売り続け、喫煙による死亡者を世界中で増産してきたからです。
 
 喫煙を起因とした死亡者数は現在世界で300万人だそうです。しかし、発展途上国に喫煙者がたばこ産業界の思惑通り普及した場合、死亡者数は1000万人に急増するそうです。

 因みに日本人の喫煙を原因とした死亡者数は10万人だそうです。交通事故による死亡者数は毎年減少し1万人を切りました。一方、自殺者は3万人を突破し、大きな社会的問題となっています。しかし、喫煙による死亡は、それよりも大きな問題となっています。この数がいかに多いかご理解頂けることと思います。

 一方、タバコによる税収は2兆円程度ですが、喫煙による医療費等マイナス面は7兆円以上となり、毎年5兆円の社会的損失となっています。
 日本の国民医療費は30兆円程度で、高齢化社会の進展に伴い増加の一途を辿っているので、もし、日本で喫煙率が0となれば、国民医療費の負担がぐっと軽くなるわけです。
 これまで私は非喫煙者の立場から、喫煙の被害を訴えてきました。しかし、本書を読んで、喫煙者自身も最大の被害者であることに気付きました。本書を読んで、喫煙者がたばこ産業界の思惑にはめられている被害者であることに気付き、一人でも多くの一が禁煙を実行し、悪魔の手から逃れることを切に望みます。

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