「マーキュリー通信」no.663【第60回「新しい時代を創る経営者の会」㈱エアーリンク前会長瀧本泰行氏の講演を聴いて】
経営者同士のクローズドの異業種交流会「新しい時代を創る経営者の会」は5年前に発足しました。あれから5年、その節目に当たる今回60回目に最適な経営者前エアーリンク会長瀧本泰行氏にベンチャー企業人生を熱く語って頂きました。
瀧本さんは、母校一橋大学の3年先輩です。一橋大学は、就職貴族といわれ、就職のシーズンとなると、学生は各企業を訪問するのですが、大学の先輩が出てきて、昼食をご馳走され、それで内定するという大変恵まれた大学です。
そういう恵まれた環境にいるとどうしてもベンチャー企業家としてチャレンジしようという意気込みは無くなってきます。
しかし、瀧本さんは敢えて大手企業を選ばず、ベンチャー企業家の道を歩まれました。そんな瀧本さんを私は尊敬しています。
さて、瀧本さんはエアーリンクという資本金550万円の旅行代理店を84年に100万円で買収しました。
社長と社員とバイト1名の陣容で自宅のキッチンで事業開始となりました。
瀧本さんが、旅行代理店を始めようとしたのは、大学卒業後に「ヨーロッパのガイドブック」を出版したことがきっかけでした。ガイドブック出版費用として、400万円の補償金を求められました。
当時瀧本さんにとって400万円は大金であり、マイホーム購入の為に貯めていた貯金を、ガイドブック出版費用に充てました。
ガイドブックの中に、読者ハガキを挿入しておきました。すると読者からの反響があり、その中に格安旅行のニーズがあることが判りました。
さて、旅行代理店を開始して、当初はそれほど顧客は見つかりませんでした。いくら読者ハガキがあるといっても、数に限りがあります。しかし、キッチンビジネスなので、元手もそれほどいらず、創業当初の困難な時期は何とか切り抜けることができました。
そして、海外旅行ブームのお陰もあり、会社業績も順調に伸び、上場も考えたそうです。
しかし、2001年に9.11事件が発生すると旅行需要はピークアウトしていきました。更に翌年にはサーズが追い打ちをかけました。同業他社が廃業、倒産を余儀なくされる中、堅実経営をしてきたエアーリンクは、何とかこの危機を切り抜けることができました。
一方で、瀧本氏は、祖父と母親が49歳の短命だったこともあり、自分自身の寿命に不安を抱いていました。50歳を過ぎた頃から、第2の人生を考え始めました。
奥様の文江さんと一緒に夫唱婦随で娘のようにして育て上げてきた会社を今後どうしたらよいのか真剣に悩みました。その選択肢は;
◆上場して、上場益を狙うべきか?
◆子供に跡を継がせ、同族経営をしていくべきか?
◆社内後継者を育成して、バトンタッチをするのか?
◆エアーリンクの事業承継をきちんと受け継いでくれる会社に譲渡すべきか?
エアーリンクは、会員制の旅行代理店です。どうすればお客様に対するサービスの維持をしながら、これまで支えてきてくれた社員やFC店にとっても自分にとってもベストの選択となるのか。瀧本さんはさんざん悩みました。奥様とも話し合いを続けました。そして、悩んだ末に出した結論が、たまたま奥様の大学(津田塾大学)の後輩が経営しているDeNAが買収に関心を示したので、これも縁と思い、売却する決意をし、1年前に売却が完了しました。
売却を発表した当日は社員にも、FC店にも動揺が走りました。一時的なパニック現象もありました。しかし、買収先のDeNAとは、エアーリンクの経営理念をきちんと理解して頂いていたので、特に大きな混乱もなく、あれから1年が経った現在、顧客サービスは従来通り維持しながら、エアーリンクは継続企業として、しっかりとした足取りで歩んでいるのでほっとしているとのことです。
そして、時間とお金を得た現在、新宿駅南口にあるビルの1室を借り、ベンチャー企業家の育成に後進の指導をご夫婦で行っています。
さて、今回瀧本さんのお話を聞いて、今回一番共鳴した部分は、連続2週間の有給休暇制度です。
瀧本さんは常日頃連続2週間の有給休暇制度を社員の福利厚生制度の為にも企業は実施すべきで、国はこの制度を法制化し、社員が連続2週間の有給休暇制度をとりやすいように後押しすべきだと主張してきました。
連続2週間の有給休暇制度を取得が習慣化すれば、レジャー産業の平日営業の活性化に繋がり、休日料金も安くなり、国民は安くて質の良いサービスを受けられるようになる。
国は、秋にもゴールデンウィーク休暇を作ろうと依然発展途上国的な発想で、お上が国民に休暇を与えているという官僚的発想から抜け切れません。海外の先進国では、日本より祝日は少なく、その代わり国民が権利として連続2週間の有給休暇制度を積極的にとっています。残念ながら、日本で連続2週間の有給休暇制度を積極的に取得しているのは公務員だけです。
尚、有給休暇を買い上げるのは法律で禁止しているという信じられない制度が日本では未だに存在しているそうです。因みに、25年前私が駐在していたカナダでは、年度末に社員の有給休暇が余った場合には、企業は買取を義務づけられています。日本とは180度異なります。
瀧本さんは、連続2週間の有給休暇制度を、何とエアーリンクを買収した84年から導入したそうです。口で言うのは容易いですが、実際に実行となるとかなりの勇気と決断がいります。
これが社員の会社に対するロイヤリティを高める結果となったようです。連続2週間の有給休暇制度は、社員にとって最大の福利厚生です。社員の労働生産性を高めます。エアーリンクでは、連続2週間の有給休暇制度取得推進の為に、チームを組んで取り組んでいます。細切れに休暇を取ると、他の社員に迷惑をかけるので、原則認めていないそうです。
確かに、私自身エアーリンクの会員として、旅行の手配を社員にお願いしましたが、皆さん一様に対応が良く、感じが良かったです。
社員は、連続2週間の有給休暇制度を使って、積極的に海外旅行に出かけているそうです。これが目に見えない顧客サービスの向上にも繋がっているようです。
瀧本さんのベンチャー企業経営者として歩んできた人生と経営哲学を拝聴し、まさに21世紀型経営の理想ともいうべき原型を本日の講演から学びました。
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